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2015/01/15~

VRMMOで僕の妹と彼女が修羅場です

VRMMOで僕の妹と彼女が修羅場です・第一部・前編  【改訂前】


 ←ぼっち転生記 WEB版 第103話『闇のオークション』 【移転以降の更新です】 →神眼の勇者WEB版 第110話 『「破壊光線」』 【新規更新】
 プロローグ

「消えなさいっ!」
 魔法戦士ルナが両の掌から放った極大閃光魔法が上位魔神(グレーターデーモン)数体を一瞬で消滅させた。
 ダンジョンBOSSである魔神王(デーモンロード)まで、『道』が出来る。
 PT(パーティ)メンバーであるルナが作ってくれた『道』を僕は駈け抜けた。
 竜騎士である僕は大剣を担ぎ、ダンジョンの床を疾走したのだ。
 魔神王(デーモンロード)の凄まじい勢いで振るった《魔神王の鞭》を、跳躍し、躱す。
「シッ!」
 跳躍と同時に大剣を上段から打ち下し、デーモンロードの額をカチ割った。
 上位竜騎士の大剣上位攻撃《竜王爆烈剣(ドラゴンロードバースト)》により、ダンジョンBOSSのHP(ヒットポイント)バーは大きく削られる。
 だが――HPバーは数ドット、残ってしまう。
 すでに、相当なダメージを与えていたのだが、惜しくも削りきることは出来なかったようだ。
「アスカさんトドメをっ!」
「オッケーっ!」
 ルナの叫びに応じ、PT(パーティ)メンバーである魔法狩人アスカが準備していた魔法弓系上位攻撃スキルを放った。
「《死の千本雨》っ!」
 天井に向かって放たれる一本の矢。
 ダンジョンの天壁に矢が刺さった瞬間――無数の矢が天壁からデーモンロードに降り注ぐ。
 まさに千本の弓矢をその身に受けたデーモンロードはHPをゼロにし、ドォと倒れた。
「よしっ後は雑魚だけだっ! 掃討するよルナっ! アスカっ!」
「了解よっ!」
「うんお兄ちゃんっ!」
 僕は美少女二人と連携し、残っていた上位魔神をまたたくまに狩り終えた。
 僕達はダンジョンのBOSS戦に見事勝利したのだ。
 お互いの健闘を褒め称える僕達。
 ネットゲームでの戦闘とはいえ、強敵を協力して倒したことで、また二人と絆が深まった気はした。
 例えネトゲでも、共同作業を行っていると、普通は仲が良くなっていくものなのだ。
 それは、長い黒髪を持つ美少女である魔法戦士ルナと金髪をツインテールにした美少女魔法狩人アスカの、二人の美少女同士も例外ではないだろう。
「アスカさん、最後の攻撃、見事だったわ。また腕をあげたわね」
「えへへ♪ まだまだルナさん程じゃないけどね♪」
「私、シロウとはもちろんだけど、アスカさんとの連携も日々上手くいくようになってきているわ」
「そうだねっ! ルナさんとの絆って言うか、女同士の友情が深まるごとに、連携も上手くいっていくみたいっ」
「まぁアスカさんったら。でもたしかにそうね」
「あたしたちの友情は永遠だよ。ね、ルナさん♪」
「ウフフ」
「エヘヘ」
 仮想世界でとはいえ嫁であり恋人であるルナと、仮想世界の嫁にして現実では僕の妹であるアスカが笑顔で会話している様子を見ると、僕も嬉しくなる。
 うんうん、仲良きことは美しきかな。
 だが――デーモンロードが落とした二組セットのアイテムが原因で、彼女達の友情はアッサリ崩れ去った。
 そのアイテム名は《幸せの指輪》。
 嵌めて歩いているだけで、経験値が自動的に増える、かなりレアなアイテムだ。
 なにより、二組セットのペアリングというのが問題だった。
 このアイテムを巡って…………女同士の醜い争いが勃発したのだ。
「シロウ、そのペアリングである《幸せの指輪》。どっちに渡すつもりかしら?」
「当然、あたしだよね。お兄ちゃん」
「……アスカさん、貴方は引っ込んでおきなさい」
「ルナ……さんこそ、邪魔だよ。どっか行ってよ」
「シロウ」
「お兄ちゃん」
 お互いに肘で相手をガスガス突いて牽制しながら、僕に詰め寄る二人の美少女。
「ぼ、僕はいらないから、二人でそれぞれ装備しなよ。うん、それがいい」
 平和的解決手段を僕は提案したが――
「いいえ、一つは貴方が装備しておいて。そして、もう一つの指輪を渡す相手を選んで。今すぐに」
「こんなオバサンより、可愛い妹を選ぶよね。当然」
「…………オバサン…………殺すわよ、貴方。私はまだ高校生なの」
「女子中学生のアタシから見たら、十分オバサンだっつーの」
「…………ふ……ふふふ……アスカさん、もうそろそろログアウトしたらどうかしら? 中学生の『子供』が起きているには、もう遅い時間帯よ」
 子供という部分を強調して言ったルナに、
「ルナ『おばさん』こそ、さっさとログアウトしなよ。はい、お疲れ様でしたぁ、バイバイ『おばさん』♪」
 『おばさん』という言葉を強調して返すアスカ。
「……本当にガキね」
「なによババァ。老人は早寝早起きするもんだし、さっさと寝たら? ルナババァ」
「…………ウフフ」
「エッヘヘ~」
 二人はお互いに笑顔を見せた後――
「「死ねっ!!!!!」」
 お互いに向け、極大閃光攻撃魔法を放った。
 そして、始まる二人の死闘(殺し合い)
 君たち、永遠の友情はどこに行ったの?
 まぁ、二人が殺し合いを始めるのはしょっちゅうだけどさ。
 意識完全ダイブ型で、非常にリアリティのあるVRMMOゲームでもあるこのネトゲにおいて、結局最後は二人の殺し合いで終わる方が多かった。
 というか、ほとんどそうだった。
「死ねっ! 死ね死ね死ね死ねっ!」
「あんたこそ死ねっ! そして二度とこのネトゲにログインするなっ!」
 憎悪の声とともにルナが放ちまくる無数の《魔法矢(マジックアロー)》を、魔力と憎しみを込めた矢を連射し、打ち落とすアスカ。
「生意気なガキは《邪王滅殺黒竜波》で教育的殺人をしてあげるわっ! ハァァァっ!」
「二度とあたしとお兄ちゃんの前にあらわれるなっババァ! 《ビッグバン・アロー》で魂ごと消し去ってやるっ! おぉぉぉぉ」
 お互いに相手を憎む気持ちと共に、最大級の攻撃の準備をする二人。
 そして二人はお互いの存在を消し去ろうとするかのように――
「「消えてなくなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」
 絶叫と共に最大級攻撃を放った。
「……ハァ。ヤレヤレだよ」
 結末を見る気がしなくなった僕は溜息と共に、ログアウト操作をした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

ルナ&シロウ完成(表紙)



 
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 最初に断っておくと、これは現実ではない。
 仮想現実の話なんだ。
 VRMMO=仮想現実大人数オンライン・ゲームの一つで、SRO『ソウル・リング・オンライン』という名前の、非常に現実感のあるゲームの世界での話なんだ。

 郊外に新築で建てた大きな屋根の白い――純白の家。
 庭には白い犬……の代わりに、冒険中に捕獲した白幼竜(ホワイトドラゴンパピー)を飼っている。
 僕の自慢の家だ。
 妻であるルナと僕との、大切な家だ。
 この邸宅といっても差支えないほどの大きな家に数ある部屋の一室――自分好みにレイアウトを凝らした僕専用の書斎で寛いでいると、とてもリラックス出来る。
 書斎のドアがトントンと軽くノックされた。僕は中に入るよう声をかけた。
「シロウ。よく冷やした果汁酒を持ってきたわ」
 僕の妻であるルナが微笑みながら書斎に入ってきた。
 僕の好きなブルーベリー漬けによる果汁酒入りのグラスを乗せたお盆を手に持って。
「ありがとうルナ。丁度喉が渇いていたんだ」
 僕は汚れひとつない純白のエプロンをした、美しい新妻にお礼を言った。
「材料はブルーベリーにワインと少々のお砂糖、それからアナタへの……大量の愛情よ」
 外見年齢十七歳ぐらいの愛らしい幼な妻は、澄まし顔で言った。少し頬が赤くなっていたので、流石に内心では照れているのだろう。
 そんな可愛い妻を好ましく思い、目を細めながら僕は彼女を見ていた。
 そして僕は愛する妻から手渡された果汁酒に口をつけて、舌で味わ――
「お兄ちゃん飲んじゃ駄目! それ猛毒入り!」
「!? ブフゥゥゥゥゥゥゥゥウ!!! ゲホゲホゲホゲホ!!!」
 僕は口に含んでいた液体を盛大に吐きだした――まったくの偶然だが、妻であるルナの整った顔面に向けて。
「…………ア~ス~カ~さ~ん~……」
 ルナが、清潔なハンカチで顔を拭きながら、人を射殺せそうなぐらいに鋭すぎる視線を、廊下に立っていた少女に向けた。
 その少女――アスカという名前の半妖精(ハーフエルフ)は、ルナから邪竜すら尻尾まいて逃げ出してしまいそうな殺気と憎しみを込められた目で睨みつけながらも、平然としていた。
「…………世の中には、タチの悪い冗談を言ったばかりに、埋められたり、沈められちゃうこともあるのよ……ところでアスカさんは山と海どっちが好きだったかしらね」
「別に冗談じゃないし」
 外見年齢十四歳前後の美少女ハーフエルフはまったく悪びれた様子はない。
 それどころか、火に油を注あるいは終末の炎にガソリンを大量投下した。
「毒使いで毒舌吐きで毒婦でもあるルナおばちゃんの、お兄ちゃんに対する迷惑な愛情なんて、まさに猛毒じゃん」
「…………生意気な小娘を裏山にある毒の沼地に沈めるのもありね…………生きたまま……【魔力縄拘束(ルーンロープバインド)】の呪文で身動きをできなくして……………」
「お、落ち着いてルナ。キ、キレちゃ駄目だよ」
 今にもマジキレそうな、魔法重視型の高レベル魔法戦士であるルナの肩を掴んで、僕は彼女を必死に宥めた。
「むー、キレそうなのはあたしの方だよ!」
 アスカは、僕の手――ルナの肩を掴んでいる僕の手――を見ながら叫んだ。
「今日は、あたしとお兄ちゃんが夫婦としてイチャイチャする日なんだから! お邪魔虫のオバさんは今すぐソロで冒険でも狩りでもしてきなよ」
 そして彼女は、この仮想世界で正式な結婚をしたことを表す『指輪』を嵌めた手をルナに見せつけた。
 ルナは、その『指輪』を本当に憎々しげに――それこそ邪眼の力があれば、破壊でも出来そうなぐらいに睨みつけた。
 さらにルナは首を回して、彼女の肩を掴んでいる、僕の手――アスカと同じ指輪を嵌めている僕の左手も同様に睨みつけた。
 いや、正確には僕の手に嵌めている指輪を睨みつけた。
「きょ、今日は『アスカの日』だから」
 言い訳がましく僕は言った。
「……ええ、そうだったわね」
 ルナは苦しそうに呟いた後、彼女の左手に嵌めている指輪に視線を落とした。
 ルナが嵌めている指輪は、『今日』僕が嵌めている指輪とは全然別モノだ。
 『昨日』僕が嵌めていた指輪とそっくりではあったけど。
「…………アナタが騙されて重婚なんかするから…………」
 ルナがポツリと呟いたその言葉には、僕への恨み辛みが非常にこもっていた。
 まぁ、ルナに恨まれるのも仕方がない。
 この仮想現実の世界では、実は重婚が認められている。
 とはいえ、実際に複数の異性と結婚する人は稀だ。
 だって、大抵はとんでもない修羅場になるし。
 だけど僕は、先にルナと結婚していたくせに、半ば強引、半分嵌められたようなモノだったけど、半妖精のアスカとも結婚してしまったのだった。
 そして、その日の妻としてルナとアスカのどちらにより親密に接するかを、一日ごとに交代することに僕たちは決めたのだった。
 そう、僕は現実世界では血の繋がった実の妹でもあるアスカとも、仮想現実の世界で結婚してしまったのだった。この世界ではアスカは妹でもあり妻でもあったのだ。
 鬼畜? 外道? 重度シスコン野郎? 
 うん……否定はできないです。
 死ね、近親相姦野郎?
 それは否定する。
 確かに僕はアスカとこの仮想現実の世界でゲームシステムとしての結婚はしてしまった。
 が、仮想世界での仮想体同士とはいえ肉体関係はない…………抱きつかれたり、チューされたり、夜這されたりはしているが、最後の一線はギリギリ越えてはいない。
「ホラ、さっさと、この家から出て行ってよ」
 アスカが犬でも追い払うかのように、ルナに向けてシッシツと手を払った。
「この家は私と夫であるシロウとの家よ。出ていくのならアスカさんの方だわ……この居候」
 ルナは居候という言葉を強調した。
 それに対して、アスカは不満そうにこう言った。
「この家ってさぁ、『一応』夫婦であるアンタとお兄ちゃんの共有財産でしょ」
「まぁそうとも言えるわね。それが何か?」
「だったらお兄ちゃんと結婚しているアタシにも、アタシとお兄ちゃんという夫婦の共有財産ということでこの家の三分の一はアタシのモノよ!」
 ニヤリと笑うアスカ。
「そ、そんな馬鹿なことがあるわけ……」
「でしょ♪ お兄ちゃん」
「……うん、ソウル・リング・オンラインの夫婦による共有財産の設定だとそうなるね」
 このゲームでは、結婚した男女は財産が共有されるようになる。お金も道具(アイテム)も家なども。
 重婚状態の場合、僕の物はルナの物、ルナの物は僕の物であり、同時に僕の物はアスカの物でもあり、アスカの物は僕の物でもある――よってルナの物はアスカの物……ともなってしまう。
 かなり問題のある財産共有システムだとは思うけど……そもそも重婚する人間自体が非常に稀なので、今のところ改善はされていない。
 現実の世界で、日本の民法とかの法律だと夫婦といえども財産は別らしいけど……(それに、重婚も認められていないけど……とういか、妹の結婚も認められていないけど)
「う……嘘……そんなの嘘でしょ? アナタ――シロウ、嘘でしょ? そんな……の。だってこの家は、私とシロウがずっと、ず~っと住む……愛し合った二人の甘い甘~いスウィートホーム…………」
 ルナは、僕の方をすがるような眼で見てきた。
 僕は彼女から目を逸らしながら残酷な(仮想)現実を告げた。
「ルナには申し訳なくて黙っていたけど、ゲームシステム上、僕がアスカと結婚してしまった日から、この家は僕とルナとアスカの三人による共有になっていたんだ…………実は」
「嘘だ!!!!」
 絶叫するルナ。
「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。」
「うわっ、怖……壊れた?」
 アスカが、ショックのあまり、頭を抱えてブツブツ呟きはじめたルナを、可哀想な生き物を見るような眼で見て言った。
「流石に、ちょっとだけオバさ……ルナさんが可哀想かな…………」
「……アスカさん。私に同情するなら家を共有する権利を放棄してちょうだい」
「イ☆ヤ★」
「お願いだからっ!」
「ふざけんな☆オバサン♪」
「…………プツン…………」口に出してプツンと呟くルナ。
 ああ!? 
 キレちゃった。ルナが完全にキレちゃった
「フフ……アスカさん……フフフ」
「何よ」
「屋上にいきましょうか…………久しぶりに…………キレてしまったわ」
「なにが久しぶりに、よ。アンタ、しょっちゅうキレてあたしに喧嘩売ってくる癖に。いいよ、売られた喧嘩は買ってあげる」
「待て二人とも!」
 僕は、今にも本気で殺し合いを始めかねない二人の間に入った。
 もはや、二人の争いは止められない。
 ならば被害は最小限に留めるべきだ。
「高レベル魔法戦士(ルーンソルジャー)のルナと高レベル魔法狩人(マジカルハンター)のアスカが本気でやりあったら、この家が消し飛ぶ! どうしてもというなら、向こうの裏山でやってくれ!」
 僕の悲痛な叫びに、二人はお互いを向いてうなずきあった。
「そうね……私とシロウの大切な家を傷つけるわけにはいかないわ」
「アンタとお兄ちゃんと『アタシの家』だけどね」
 自分の家でもある事を強調するアスカ。
「クッ……コノ……」
「あ、そうだ。アンタがお兄ちゃんと離婚してくれるなら、この家アンタに譲るよ」
「……シロウと一緒に住めないなら、家だけあっても意味がないわ」
「あ、そ。じゃあ、先に裏山に飛んでいくけど、逃げないでよオバサン」
 アスカは高速飛行(フライト)の呪文を唱えて、二階の窓から飛び出して行った。
「誰が逃げるもんですか…………ボコボコのギタギタのグチョグチョにしてやるわ」
 ルナは、アスカが高速飛行していった方角を睨みつけながら、子供が見たら泣き出しそうなぐらいに怖い顔をした。
「……シロウ」
「え、何?」
 果汁酒を口から噴き出したせいで汚れていた床の拭き掃除をしていた僕は、名前を呼ばれたので返事をした。
「あの小娘を裏山の毒の沼地に沈めてきた後、この家が私とシロウの二人だけの家でなくなっている件に関して、トコトン追及するから。今のうちに謝罪の言葉を考えおきなさい。最も、どんな言葉でも、例え百万言の謝罪の言葉を費やしたとしても、決して許されることではないけれど」
「………………ハ……イ…………いってらっしゃい……」
 僕は高速飛行呪文で飛び立ったルナを見送りながら、彼女が帰ってきた後の事を考えて憂鬱な気分になった。
 絶対、お仕置きされる。それも洒落にならないレベルの。
 半分騙されたとはいえ、アスカと重婚してしまった時も酷かったけど………………。今回もそれに匹敵するぐらいのお仕置きをされそうだ。
 ハァァ……窓から空を見上げていた僕は重い溜息をついた。
 そして、一ヵ月前までは、アスカはまだこの世界に来ておらず、僕はルナと二人っきりで冒険に出ることがほとんどだったことを思い出した。
 僕が他の女性キャラクターと話をするだけで、機嫌が悪くなる焼きもち焼きのルナに苦笑することはあっても、今のような僕の妹と彼女による修羅場がなく、平和な時代だったあの頃を――……

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 現実並みのリアリティを持つと言われている、仮想現実・大規模・多人数同時参加型オンラインゲーム。
 いわゆるVRMMO(ヴァーチャル リアリティ マッシブリー マルチプレイヤー オンライン)ゲーム。
 そのひとつ『ソウル・リング・オンライン』。
 通称『SRO(ソロ)』。
 そのVRMMO(ネットゲーム)に、僕は学校の成績が下がるほどにハマっていた。
 そこには、現実ではまず味わえない興奮があり充実感や充足感もあった。
 そして――大切な人がいたからだ。
 現実には、恋人はおろか女友達すらいない僕。
 だが、このソウル・リング・オンライン(SRO)の世界には、僕が好きになった、僕を好きになってくれた女性がいた。
 まぁ、あくまで、仮想現実=VRMMOの中だけの付き合いでしかないんだけどね。
 ネトゲ(ネットゲーム)限定の恋人、である。

「シ、シロウ!」
 上ずった声で、僕――シロウ・クロウ――の名を、女性が呼んだ。
 部屋で《宝箱》の罠などを調べ、その後、開けていた女性だ。
 長く艶やかな黒髪に月光に輝くような白く綺麗な肌をした、美しい少女。
 名前はルナ・ノワール。
 【職業(ジョブ)】は中世ファンタジーRPGによくある、魔法戦士。
 ゲーム(ネトゲ)上での僕の冒険仲間だ。
 そして、僕の恋人でもある。
 …………あくまでゲーム上の話だけどね。
 もちろん、ルナを操作しているのは女性プレイヤーのはずである。
 これは彼女の自己申告だけど。
(もし彼女が嘘をついており、じつはネカマ=ネットオカマの男だったりしたら――僕は相当なショックを受け、生涯のトラウマになるかもしれない)
「なんだい、ルナ。そんなに緊張して……お、《真銀鉱石(ミスリルオーレ)》ゲット」
 僕は、倒した真銀人形兵(ミスリルゴーレム)から、何か良いレアアイテムがでてこないかと、物色=剥ぎ取りをしながら尋ねた。
 探索中の塔――『誓いの塔』の最上階にて、今しがたルナと二人がかりでなんとか倒した守護モンスターだ。
 尋ねつつも物色する手は休めない。
 おそらく、結構貴重な素材用アイテムである真銀鉱石を後、3石はゲットできそうだ。
「そんな石ころなど、今はどうでもいいわ!  シロウ、これを見なさい!」
「オイオイ、この純度にこの大きさなら、軽く金貨百枚以上になる真銀鉱石(ミスリルオーレ)を、そのへんの石ころ扱いしないでくれよ」
 僕は苦笑した。
 そして、興奮気味のルナが、それこそ宝物のように大事に手に持っている二つの指輪に注目する。
「シロウ! ち、『誓いの指輪』よ。それも二つ!」
 普段は冷静沈着なルナ。
 その彼女が、今はその身体も声も、とても震えていた。
 宝箱から『誓いの指輪』が出たことに興奮しているのだろう。
「うん、そうだね。『誓いの指輪』だね。うん」
 一方、僕は冷静な声と態度のままだった。
 そして、見落としがないように、より注意深く物色するために、倒したモンスターに視線を戻す……お、これは……
「やた! 《真銀の小手》、ゲットォ! 」
「………………シロウ……ちょっと、貴方……いい加減にしないと……“殺す”わよ……」
 ルナが、その美しい目を半眼にして僕を睨んできた。
 額には小さく血管も浮いている。
 最新のVR技術を駆使したこのネトゲは、アバターの表情が現実そっくりに表現されたりもする。
 脳から発する電気信号を読み取り、プレイヤーの感情に従って、アバターの表情を変化させているらしい。
 とはいえ、額に血管が浮くほどのは、よっぽど怒っているときであろうけど。
「え? え? 何? 何で、いきなり不機嫌になっておられるのですか?」
 僕は豹変したルナにビビッてしまい、思わず敬語を使ってしまった。
 物色していた手を止め、その場で直立不動の姿勢もとってしまった。
 彼女、ルナ・ノワールは別名、狂気の月姫(ルナティック・ルナ)と呼ばれるほど、キレたら、滅茶苦茶怖いのだ。
 この前も、僕が他の女性キャラクターと親しくしていたら、いきなり極大呪文をブチかまして――いや、止めておこう、今思い出しても、恐怖で背筋が凍ってしまう。
「シロウは、どうしてそんなに冷静でいられるのかしら。 せっかく結婚に必要な『誓いの指輪』が私たちの手にはいったというのに…………」
 怒気をはらんだルナの声。
「いやだって……この誓いの塔の最上階で、誓いの指輪が入手できることは、事前に知っていたし。というか、このゲームのほとんどのプレイヤーが知っていることだし」
「だとしても! もっと嬉しそうにしなさいよ! 馬鹿みたいにはしゃぎなさいよ! それこそ、『ヒャッハー、誓いの指輪ゲットだぜぇい! これでルナたんと正式に結婚できるぅぅぅぅ! イヤホォオォオイ! ハーレルヤ、ハレルゥヤァ!』って叫んで狂喜乱舞しなさいよ!」
 ルナは石畳の床を、ダンダンと音が鳴るぐらいに足踏みして、僕のある意味で冷めた感じの態度をなじった。

 ――『誓いの指輪』―― 通常は非売品。買取価格は金貨で二百枚のアイテムではある。このゲームでの金貨一枚は、分かりやすく現実世界での日本円に換算すると、ゲーム内では一万円程の価値があるので、たしかにかなり高価な指輪だけど…………装備しても別に能力が上昇するわけでもなく、戦闘等に役立つ特殊効果があるわけではない。
 しかもこの塔で必ず手に入ることが分かっていたアイテムに、そんなラリッたような喜び方は、流石にできない。
 まぁ、ゲーム内でキャラクター同士が正式に『結婚』する際に、必要な結婚指輪のひとつでもあるけど。

「人がせっかく、感動にうち震えていたのに…………シロウも協力しなさいよ、ココ、一生の思い出になる場面なのよ!」
「わーい。誓いの指輪が手に入って嬉しいな。嬉しいなったら、嬉しいな」
「ぼ……棒読みすぎる」
 僕の迫真の演技による喜びのセリフに、ルナはがっくりと肩を落とした。失礼だなぁ。
「シロウ、貴方ね。まさか、あの約束を忘れてしまったの」
 僕は右頬をポリポリ掻きながら努めて気軽に
「いや、覚えているよ。この塔で誓いの指輪を手に入れたら、その……結婚、する約束だろう」
 と言った。流石に、結婚という言葉は少し照れくさかったけど。
「そうよ、結婚なのよ!」
 顔を赤らめながら叫ぶルナ。
 う~ん彼女、誓いの指輪を入手してから、とてもテンション高いなぁ。
「結婚……それは愛するもの同士が一生を添い遂げることを誓う、究極の愛の儀式」
 頬を赤らめながら夢見るような乙女の瞳で、両手を胸の前で組みつつ呟くルナ。
「まぁ結婚といっても、あくまでゲーム内だけの話だけどね。僕達、現実では顔も名前も知らない同士だし」
「(ピクッ)」
 僕の当たり前といえば、当たり前の言葉に、ピクッとルナの肩は震えたのだが、うかつにも僕は気が付かなかった。
「それに一生といっても、このソウル・リング・オンラインのサービスが終了したら、それまでだけど。あるいは僕かルナがこのゲームに飽きて止めたりしてもね」
「(ピキッ! ピキッ!)」
ルナの額に太い血管が浮いたのだが、これまた不覚にも気づかなかった。
「そもそも、現実もそうだけど結婚があれば離婚もあるわけで……このゲームでも一年以内に約半数のカップルが離婚を……」
「黙れ!!!」
 僕は最後まで言葉を続けられなかった。
 非常に高い器用度と彼女の持つ上位投擲スキルにより、正に目にも留まらぬ早業で投げつけられたオリハルコン製の投げナイフ。
 そのナイフが、僕の左頬を掠っていったからだ。
 僕の頬から、かなりの量の赤い血が流れる。
「次は刺すわ……命に届くよう、貴方の心臓に……深く、深く…………刺すわ」
「すいませんすいませんすいません。余計なこと言ってホントすいません」
 慌てて何度も頭を下げる僕。う~ん、我ながら情けない姿だ。
 しかし、さっきのは確かに失言だ。
 反省しよう。
 ルナは、ゲームに集中したいとかで、現実の世界の話をされるのを極端に嫌がっているうえに、妙に結婚に憧れを抱いているところがあるみたいだし。
「あのルナさん、回復魔法かけてくれません? 残りHPが結構ヤバイ感じなんで」
「まったく……もうMPも残り少ないのに」
 彼女は呆れつつも、回復魔法を唱えてくれた。
「……メガ・ヒール……」
 僕の左頬の傷やその他の傷がみるみる塞がる。真銀人形兵との死闘(と、さっきの投げナイフ)で減っていたHPもある程度回復する。
 しかし、VRとはいえ、このゲームでは、怪我しても痛みはないのだけど、回復魔法をかけられると、暖かくて結構気持ちが良い。
 僕が回復魔法の気持ちよさを、目を瞑って感じていると、そこに、なにか別の気持ちよさが加わった。
 僕の身体に柔らかい二つのものが押し付けられていた。
 その柔らかいものは、ルナのかなり大きな胸だった。
「シロウは、私と結婚したく…………なくなったの?」
 ルナは、僕に胸を押し付けるように密着させながら、不安そうな眼で見上げてきた。
 VRであるこの世界では、現実世界のような感覚――視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を体感できる。
 彼女の柔らかい肌と、良い匂いのする彼女の体臭に赤面しつつ、僕は言った。
「ううん、そんなことはないよ。僕はルナと結婚したいさ」
 僕の言葉に、ほっと安心するルナ。
 確かに、僕はこのソウル・リング・オンラインの世界で、恋人のルナと結婚したいか、したくないかで言うと、結婚したいというのが正直な気持ちではある。
 というか、内心では……ルナと結婚を凄くしたい。
 ただ、どれだけリアルとはいえ、やはりゲームの世界であり、現実ではないのだ。
 ゲームの世界での結婚を、本気で喜んでいる態度を出すのは、なんというか気恥ずかしいのだ。
 ルナのようにゲームである仮想現実世界の出来事(イベント)に本気すぎると、周りが引くこともあるし。
 …………もっとも、このリアルすぎる仮想現実世界――ソウル・リング・オンラインこそが、『本当の世界』、だの、『自分にとって現実』、だの、と本気で言っているかなりディープなゲーマーは、日本だけでも相当数いるらしいけど。
 う~ん、大丈夫なのかな、この国。
 まぁ、VRMMOが開発されて以来、日本だけでなく世界中に廃人ゲーマーが大量発生していると、結構な社会問題になってもいるけどね。
 このソウル・リング・オンラインなんかも、廃人大量製造ゲームとか、このゲームに熱中すると『魂(ソウル)』を抜かれるとか言われているし。
 …………僕に抱きついたままのルナは、潤んだ瞳で僕を上目使いで見つめながら、顔を真っ赤にさせて、
「私もシロウと結婚したい。とっても、とっても大好きな貴方と、誰よりも愛している貴方と、世界で一番大切な貴方と――私にとって “本物” であるこの世界で結婚したい」
 と、震えるような声で言った。
 現実より、ゲームである――ゲームでしかない、仮想現実世界の方が大切だという社会不適合ぎみの人達。
 …………僕の(ゲーム世界での)恋人も、そういう人種なのかもしれない。
 正直に言うと、ルナのことは少々……結構……かなり……凄く……痛い人、だと思ってしまうことはあった。
 でも…………僕を――現実世界では女性から好きだと言われたことなんか一回もない、全然モテない僕なんかのことを、こんなに思ってくれているルナからの告白に、例えそれがゲームの世界での告白とはいえ、僕は本気で――魂が震える気がした。
「ねぇ、シロウ」
「うん?」
「私のこと好き?」
「う、うん」
「私のこと愛している?」
「……うん……」
 真剣な表情をしたルナの問いかけに、僕は恥ずかしくて赤面しつつも、小さな声でだけど肯定した。
 いや、肯定せずにはおられなかった。
「ルナ」
「なに、シロウ?」
「告白の最中、抱き着きつつ僕の背中に、致死性の猛毒を塗っている短剣を突きつけるのはやめて欲しい」
 ミリ単位で寸止めされているけど、いつその死の刃が僕の背中に突き刺さるかと思うと嫌な汗が止まらないし。
 僕は冷や汗を顔と背中にかきながら、以前、彼女の問いかけを(冗談で)否定したときの惨劇を思いだしていた。

「私こと好き?」
「う~ん最近良く分からないんだ」
 チク……リ(短剣が僕の背中に押し付けられた)
「…………私のこと愛しているわよね?」
「……う、ううん……実はあんまり」
 ズブゥ! グリグリィ! 
(短刀の刃が僕の背中から心臓まで一気に埋め込まれて、さらに心臓をえぐるようなひねりを加えられた)
 恋人により刺殺された僕は、五分間の待機状態後、拠点にしている町の広場に強制転送されてHP1の状態で復活したのだ。そして、転移(テレポート)石を使って、町の広場で待ち構えていた虚ろな目をしたルナに、ふたたび殺された。また復活して三度殺されそうになったときに、今日は(現実世界の暦で)エイプリルフールなので、冗談のつもりで心にもない嘘をついただけという釈明をして、なんとか許してもらったけど。

「あら……嫌だわ、私ったらつい癖で……てへっ」
 ルナは、小さく舌をだしながら、布で毒を拭きながら短剣を鞘に収めた。
「世界で一番大切らしい恋人に猛毒を塗った短剣を突きつけるのが癖って、どうなのそれ」
 僕は、ルナの仕草を可愛いとは思いつつも、慣れた手つきで、竜殺しと呼ばれるほどの猛毒を塗った短剣を器用に操る彼女の仕草に、戦慄を覚えた。
「だって……シロウって時折だけど、心にもない嘘をつくもの」
「あ……まぁ」
「嘘とは分かっていても、やっぱり嫌なの。だから……嘘をつかれないように……つい」
「……そ、そう。あ、そういえばルナ」
「何?」
「ギルドに所属している種族が猫人(フェルマー)で、鈴音(スズネ)という名前の女性盗賊がいただろ」
「ああ、いたわね。そんな名前の年中発情中の泥棒猫が」
 吐き捨てるように言うルナ。
 ルナは、鈴音を快く思っていない。理由は、鈴音が僕に色目を使うから、との事らしい。
 鈴音の僕に対する態度は、からかい半分だと思うけどなぁ。
 鈴音はギルドに所属する男性のほとんどに粉をかけているし。
 まぁ、それはともかくとして。
 ギルドの掲示板に書いてあった、アイテムトレードのことを思い出したので、それをルナに告げた。
「実は、SRO(ソウルリングオンライン)の正式な結婚に必要な指輪……例えば、誓いの指輪と、鈴音が持っている星落としの腕輪(メテオリング)というかなりレアなアイテムとを交換してくれるって、アイテムトレードの掲示板に彼女が書き込みを――」
「嫌」
 ルナは、僕に最後まで言わせずに、キッパリと言った。
「絶対嫌。死んでも嫌。殺されても嫌。まぁ殺されるぐらいならあの色情狂いのビッチ猫を殺すけど。とにかくぜ~たい嫌。この指輪はどんなアイテムとも交換しない」
 断固拒否されてしまった。
 まぁ仕方ない。僕も同じギルドに所属している鈴音への義理で一応聞いてみただけだ。
「だってこの指輪はシロウと私が結婚するための大切な指輪なんだから」
「……うん、そうだね」
 ルナは指輪を握った手を、ギュッと大切そうに彼女の胸に押し付けた。
 そんな彼女を見ながら、僕は頬を掻きながら、頷いた。
 その後しばらくの間、真銀人形兵の剥ぎ取りを続けたり、塔の最上階であるこの部屋を入念に探索した。
「じゃあシロウ。一旦町へ帰って宿屋で休息をとりましょうよ」
「了解。とりあえず……今日の冒険はこれまでだね」
「……そう……ね。宿屋で一夜を明かした後、明日からは、私達の結婚資金と結婚後に一緒に住むスウィートホーム♪ 購入資金を貯めるために、冒険しまくりの狩りまくりよ!」
 ルナは気合いの入った声をあげた。
 親しいギルドメンバーだけの慎ましい結婚式をあげるつもりなので結婚資金はすぐに貯まる。
 でも、家の購入は半端なくお金がかかるので相当時間がかかると思うけどなぁ。
 それはともかくとして。
 僕たちは、慣れた手つきで、虚空を指で叩くなどの操作する
 そして表示されたアイテムウィンドウから転移石を選び――拠点にしている町まで一気に転移することにした。
 一瞬、視界がぼやけて、気を失うような感覚に落ちてしまい眼を瞑るが、次に目を開けると、見なれた中世風の外観をした石畳が広がる町の、中央に大きな噴水がある広場に僕とルナは立っていた。

「……じゃあ、また明日の午後九時――現実世界での午後九時に、ね」
 僕はルナと同じ宿屋の同じ部屋にチェックインした後、食事と風呂を済ませ、寝間着(ネグリジェ)に着換えた彼女と同じベッドに入りながら言った。
 そして、虚空を指で軽く叩いてSROのシステムであるメインウィンドウを開き、そのメニューの一番下にあるログアウトボタンを指で叩こうとしたのだが――ルナに声を掛けられたので中断した。
「ねぇ、シロウ」
「うん?」
「この世界を出ないで――ログアウトなんかせずに――この世界でこのまま一夜を過ごした後、このまま――ずっとログインしたまま――明日も一緒に……冒険しない?」
「それは無理だよ……だって現実世界の時間でも後、四時間いや五時間近くゲームを続けることになるし」
 ルナの提案に、僕は難しい顔をして頭を振った。

 そうそう、ここでSROと現実世界の『時間』に関して説明するね。
 実は、SROと現実の世界では流れている時間の感覚が違うんだ。
 SROの世界で丸一日、つまり二十四時間過ごしても現実の世界では四時間しか経たない。SROで六時間過ごしても、現実世界では一時間しか経たない。
 つまり、SROと現実世界では六倍の時間差があるのだ。
 これは技術的にも非常に画期的なことらしいけど、理数系の苦手な僕には、どうやって現実とSROの中で時間の感覚を変えることが出来ているのか、その仕組みが良く分からない。
 一応説明書に詳しく書いてはあったけど……うろ覚えで説明すると、現実世界で頭に装備しているヘッドギアから、脳に流す電流により脳神経を含め感覚神経に擬似的な、なんとかをなんとかして……うん、まぁ、とにかく、SROと現実世界では流れる時間が違うのだ。
 ちなみに、理論上は六倍や十二倍、二十四倍どころか、百倍、千倍、いや百万倍にもSROでの時間と現実の差を変えられるらしい。
 ただその場合、人間の脳に深刻な異常をきたすダメージを与えることになるので倫理上やその他の問題で現実との時間感覚の乖離が制限されている…………という、噂を聞いたこともある。
 また、SROの世界で神になろうとした脳科学のエキスパートでもあるゲーム開発者の手により、百万倍の時間差によるSROの世界に、当時SROに接続していた一万人のプレイヤーが閉じ込められたことが、過去にあったという噂も聞いたことがある。
 そして、脳に深刻な異常をきたし本当の意味で廃人化するまでのタイムリミットである、VRMMOのゲーム世界では百年間に渡り、現実世界では約一時間の間――で、デスゲームが行われていた……らしい。
 さらに、そのデスゲームに強制参加させられた者たちは、ゲームクリア時に記憶を消されているけど、その時の思い出が心の奥底――魂の中で眠っていて、今でも、SROの世界に魂が惹かれているかのようにゲームを続けている……という途方もない噂だ。
 いや、都市伝説の類だろうけど。
 僕はその噂を聞いた時、それなんてラノベ? と思って苦笑したけど。

 ……話を戻して。
 今、現実の世界では午後十一時を少し過ぎたぐらいのはずだ。
 いつもなら、これぐらいの時間でSROの世界からログアウトする。
 そして、リアルすぎるVRMMOの体験により、冷汗も含めて汗を掻いていることもあるので、シャワーを浴びたりして、十二時前後に就寝している。
 それが、ルナの提案通りにゲームを続けて、このSROの世界にもう一日居続けたら、ログアウトする頃には、現実世界では午前四時前後になってしまう。
 明日も学校があるし、それはちょっと難しい。
 ログアウト後、遅刻しないギリギリの午前八時まで寝ることにしても、睡眠時間が四時間ぐらいになってしまう。
 僕は現実の世界では睡眠六時間は少なくとも欲しい人間だった。
 そろそろ現実の世界でも眠たくなってきたし、僕はこのままログアウトするつもりだった。
 僕が横になっているのと同じベッドに、腰掛けながら恥ずかしげに頬を染めたルナに、こう言われるまでは。
「もし、ずっとログインして欲しいという私のお願いを聞いてくれたら……す、少しだけなら私にエッチなこと……してもいいわよ」
「なんですとっ!?」
 僕は一気に眠気が吹き飛んだ。
 そして、ベッドから跳ねるように上半身を起こした。
「いいの!? あんなことやこんなことやピーでピピーでピピピーなこと、ルナにしていいの!?」
「お、落ち着いてシロウ……ドウドウ」
 興奮のあまり、思わずピー音を連発した僕を、なだめるようにルナは手を前につきだした。
「あんなことやこんなこと、とか、ピーとかピピーとかピピピー、とか言われても、シロウが具体的に何をしたいのか分からないから、承諾のしようがないわよ」
 そりゃそうだ。本当に『ピー』と口で言っただけなんだから。
 いや、だって具体的な言葉を口に出すのは恥ずかしかったし。
 現実世界では無論、このSROも含めた仮想現実世界でも、僕はチキンな童貞なんだ。恥ずかしがり屋のチェリーボーイなんだ。
「……仕方がないじゃないか。一年以上の付き合いで恋人でもあるはずのルナはキスと、せいぜい軽いハグまでしか、僕からはさせてくれないし」
「それは……」
「……そのくせ、プレイヤーにしろ、NPC(ノンプレイヤー)にしろ、他の女性キャラクターに僕が手を出したら、その女性キャラクターと僕は、ルナに絶対に殺されるんだから…………それも惨い殺され方で……惨殺確実なんだから」
「男性のシロウには、ずっと我慢させているとは思う。でも……私は結婚するまでは清い身体でいたいの」
「う、うんそうだったね」
 貞操観念のしっかりした女性であるルナは、確かに結婚するまでは僕にその身体――現実の身体ではなく仮想現実の身体だけど、それでも彼女にとってとても大切な身体――を許すことはないだろう。
 僕も、その辺は諦めてルナと付き合ってはいた。
 ……………………実のところ、ルナと結婚を凄くしたいという気持の、何割かはルナを抱きたい、エッチしたいという気持ちもあった。
 う~ん、余計な事を喋ってしまったかもしれない。特にコレを読んでいる女性の読者に軽蔑された気がする…………。
 でも男は好きな女性の心と身体の両方が欲しくなる生物だと、僕は思う。
 いや、僕が彼女からもらえるのは、あくまで仮想現実世界においてのルナの身体なんだけど。
 心も……ね。
「結婚資金と私たちのスウィートホーム――大きな屋根の白い家、庭に大きな白い犬を飼える家、シロウと私がずっと――ずっと住むことの出来る家の購入資金が溜まって、結婚式を挙げたら…………その日に、シロウに私の全部を許すから。貴方に私の全部をあげるから」
 ルナは頬を染めながら小声で言った。
「その家って、新築じゃなければどうしても駄目?」
「もちろんよ」
「後、一年はかかるね……現実世界の時間で」
 現実世界の時間でほぼ毎日、一日平均三時間はログインして冒険や狩りに勤しんでも……うん、やっぱりお金が溜まるまでには現実世界の時間で一年ぐらいはかかる。
 SROで新築の家を購入するのは、とても大変なんだ。それこそ、命がけで竜(ドラゴン)の一匹や二匹狩っても、全然、手が届かないぐらいに。
 家(マイホーム)購入を難しい目標にして、SROプレイヤーのモチベーションをあげる為だとは思うけど……。
 正直、結婚式をあげる条件の一つに、僕と一緒に住む家の購入を、ルナが強く希望している以上、『誓いの指輪』が手に入ったところで、彼女が理想とするヴァージンロードへの道程は果てしなく遠いのである。
 僕が『誓いの指輪』が手に入った時に少々冷めた態度だった理由のひとつは、このためでもあった。
「だ、だから二人でこの世界にいる時間をもっと長くして、いっぱい冒険するのよ。そうしたら向こうの世界――現実世界――の時間でも数か月ですむでしょうし」
「う~ん、一日や二日ならともかく、そんな何カ月も現実での睡眠時間を削るのはなぁ」
 腕を組んで渋る僕を見て、ルナは小さく溜息をついた。とても残念そうに。とても寂しそうに。
「とりあえず今日は、一旦ログアウトするよ」
「え……」
「宿屋のベッドで横になっていてもSROの世界で六時間――現実の世界なら一時間だけど――経たないと、僕やルナのHPやMPが回復しないし」
「……ええ、そうだったわね」
 SROは妙に面倒くさいところがあるゲームで、昔のコンピューターRPGみたいに『宿屋に泊る』を選択したら、音楽が鳴って、すぐにHPやらなにやら回復したりすることがない。
 たとえ宿屋に泊って休息しても、SROの世界の時間で六時間経たないと回復しないのだ。
 ある意味では、これも現実感があるといえるけど。
 まぁ休息状態でログアウトして、現実世界で一時間経った後、再ログインすれば回復しているのだから、そこまで困ることはない。
 リアリティ追求に五月蝿いディープなプレイヤーの中には、ゲームでの六時間の睡眠すらログアウトしない強者もいる。SROにログインしたまま目を瞑って無言で過ごす豪の者もいるらしいのだ。ハッキリ言ってやりすぎだと思うけど。
 さらにはログインしたままでも、仮想現実の世界での肉体の睡眠と同時に、現実世界の肉体も睡眠がとれる特殊能力が身についた超人すらいるという噂も聞いたことあるけど…………理論的には不可能なはずなんだけどね。
 ログインしたままだと、頭に装着しているヘッドギアから、絶えず脳に電気信号が流され続けるわけだから、目を瞑って休んでいても、純粋な意味で睡眠にはならないし。
 だが…………これも噂だけど、一度もログアウトせずに、SROの世界に丸一ヵ月間(現実世界なら約五日間)ずっとログインしたまま過ごした超廃人が存在するらしい。
 睡眠とか食事とか排泄とか、その他イロイロ、現実世界の肉体はどうやっていたんだろう……謎だ。
 睡眠は例の特殊能力で、食事、排便は誰か他人に世話をさせたのだろうか? あるいは、点滴&オムツという伝説の装備で?
 …………ま、それはともかく。
「ルナ。僕は一時間たったら、ログインするよ。現実世界の〇時三〇分ぐらいに、ね」
 僕の言葉にルナの顔が輝いた。
「私も必ずその時間にこの世界に戻ってくるわ。例え、向こうの世界でどんなことがあっても!」
「いや、そんな大げさに考えないでよ」
「いいえ、必ず戻ってくるわ。約束する……シロウも約束して」
「うん、わかったよ約束する」
「シロウ……ありがとう」
「それはそうと……。とんでもなくエロイことをルナにしても許されるというエロエロ許可証を発行してもらった件に関してだけど」
「そ、そんなもの発行した覚えはないわ! それは偽造よ!」
「アレ、違った? ログインしたままならピーなことしていいと約束したはずでは」
「少しだけです! え、エッチィなことを許可したのは」
「チッ……」
「舌打ち!? 今、シロウが舌打ちした!?」
「騙されなかったか……」
「えぇ!? 恋人の私を騙してとんでもなくエロいことをするつもりだったの!?」
「冗談だよ」
「ホッ……」
「で、結構エッチなことをしてもイイと、許してもらった件に関してだけど……」
「ええ、それは……って、少しだけだから! 許可したのは!」
「チッ……」
「また舌打ち!?」
「だから冗談だよ……というか、ルナがお願いした通りにずっとログインする訳じゃなく、現実世界の時間で一時間はログアウトする訳だし……今回は別に何にもしなくていいよ」
「え……いいの? 本当に?」
「うん。じゃあ……一度落ちるよ」
 そう言い残しながら、僕はSROの世界からログアウトした。
 …………やっぱり、胸ぐらいは揉ませてもらう約束をした方がよかったかなぁ、などという、わりと最低な事を後悔しながら――……
 


 SROの世界から僕はログアウトした。
 そして、いつもの習慣で一階にある浴室にてシャワーを浴びた。
 さらに、お茶でも飲もうと台所に向かった。
 そこで…………現実世界において僕の最大の天敵を発見してしまった。
 アスカという名の僕の妹にして僕の天敵――そして現実世界では女友達が一人もいない僕には、理解不能なリア充女子中学生という謎のイキモノを。
 僕の妹・アスカは、リビングでソファーに腰掛けながら、そのモデルのように細く長い脚を組みつつ雑誌を読んでいる。
 妹は、まだ僕には気付いていない。
 妹に若干の苦手意識のある僕としては、彼女にそのまま僕の存在を気付かないで欲しい。
 だけど、このままリビングを横切って台所に向かえば、まず気付かれるだろう。
 一瞬、お茶を飲むのを諦めて、このまま二階に上がろうかと思った。だが、兄としてその行動はいかがなものかとも思い、僕はリビングに入った。
 無言で戸を開けて入ったのだ。
 妹に声をかけたりもせず、黙ってその前を横切ろうとする。
 僕の存在に気づいた妹は、読んでいたティーンズ向けファッション雑誌から目を上げて、じっと僕を見つめてきた。
 無言で。
「………………」
「………………」
 …………僕は心なし早歩きで彼女の前を横切り、台所に到着した。
 冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出して、コップに注ぎ、そして喉を潤す。
 うん、上手い。
 途中、予期せぬ妹との遭遇戦の為に、よけいに喉が渇いてしまったから、特に美味しく感じた。
 麦茶を冷蔵庫になおした後、そこで僕は少し困ってしまった。
 ……アスカのやつ、リビングから出ていってくれないかな。
 また、無言で妹の前を横切るのは、あまり気持ちが良くない。
 一言ぐらい声をかければいいのかもしれないが、妹に無視される可能性もあるので躊躇する。実際に無視されたことが何回もあったし。
 僕と妹は無茶苦茶仲が悪いというわけでもない。
 はずなのだが、冷えた関係ではある。
 冷戦状態なのである。
 それも昨日今日の話ではなく、ここ数年に渡って、相互不可侵条約と内政不干渉を暗黙の内に結んでいる関係なのであった。
 こうなった原因はよく分からない。
 まぁ、妹はスクールカースト最上位に君臨していそうなリア充美少女中学生様なのだ。
 アイツとしては、スクールカーストでも真ん中か、下手したら下位に生息していそうなショボイ男子高校生を兄として認めたくないのかもしれない……フゥ……。

 …………ついでに夜食でも作ろうかな。
 妹がリビングから立ち去る気配もないし、この後、もう一回SROの世界にログインして現実世界の時間で三時間前後は起きておく予定だしね。
 仮想現実世界で美味しい料理、例えばルナの手料理なんかを食べれば、その世界にいる間は幸福感に満たせされ満腹感を抱く。
 でも、現実の身体でずっと食事をとっていない場合、ログアウトしたら急激にお腹が空くのだ。
 僕は、お湯を沸かして夜食の友であるカップラーメンを食べることにした。

 そして食べ終わった。
 僕は心で呟いた後、空になったカップラーメンの容器をゴミ箱に捨てた。
 ついでに、リビングを覗き見た。
 …………オイオイ、リビングにまだいるよマイシスターが。
 もう十二時を回っているんだし、雑誌なんか読んでないで中学生は早く寝ろよな。
 などと、この後、数時間もオンラインゲームをする予定である自分の事を棚に上げまくって、僕は心で妹に説教をしていた。
 ……仕方ない。ステルス機能搭載の戦闘機を操縦する気分で、またあの戦場を通り抜けるとするか。
 僕は、またも無言で妹の前を横切ろうとした。
「……ねぇ」
 なにか幻聴が聞こえた気がしたが、僕は構わずやや早足で歩を進めた。
「………………」
「……ねぇって……………………」
「……………………」
「……ムカツク」
「…………………………」
「~~っ。虫みたいな癖に無視すんな」
 これも幻聴だ。
 そもそも兄を虫呼ばわりするような酷い妹なんか僕にはいない。
 僕は無言のままリビングから出ようとした。
「………………痛!」
 後頭部に予期せぬ衝撃を受けて、僕は思わず声を大きな上げた。
 頭を手で押さえながら振り返って確認すると、丸めた雑誌で自分の肩を叩きながら仁王立ちをした妹様がいた。
 どう考えても、その丸めた雑誌で僕の頭を殴ったとしか思えない。
「あんたさぁ、お母さんが起きてきちゃうから大声あげないでよ」
「……お前が、いきなり僕の頭を殴ったからだろ。ちょっと痛かったぞ、謝れよ」
「ハァ? 男のくせに女の子から雑誌で軽く叩かれたぐらいで何ムキになってんの。ダサッ」
「……あのなぁ、お前がそんなだから」
 僕は妹を見上げながら半眼で軽く睨んだ。
「……何よ、アタシに言いたいことでもあんの?」
 妹は僕を見下ろしながら、迫力満点の眼で睨みかえしてきた。
 怖っ!
 マジ怖い!
 その辺のヤンキーよりはるかに迫力あるよこの妹。
 金髪、身長百七十数センチにして、柔道や弓道の武道を身に付けている妹の迫力や眼力は本当に半端ない。
 細身で体重は僕より軽いハズだけど、並みの男子高校生と同程度の戦闘力しかない僕より、彼女は遥かに強いし。サイヤ人、いや超サイヤ人並みの戦闘力持っているし。
 あ。
 金髪なのは彼女がイギリス人とのハーフだからであって、別に不良というわけではないことを、一応妹の名誉のために言っておこう。
 ちなみに、僕はハーフではない。
 妹とは、母親は同じだけど父親が違うのである。
 半分とはいえ、僕はこの妹――金糸のような綺麗な髪、宝石のような碧い瞳、陶器のように白い肌、小さな桜色の唇という、天使あるいは妖精のような、まさに美少女というに相応しい整った顔の少女。
 モデルのような長い手足を持つ長身の少女。
 仮想現実ならともかく、この現実世界に存在するのが信じられないぐらいのパーフェクトに美しい少女――と血を分けているのが、本当に信じられない。
 妹は外見だけでなく、成績優秀、運動も得意であり、レベルの高い友達も多く、学校のクラスでは女神のように敬われているという、完璧超人だった。
 正直、僕はこの妹が苦手なだけでなく、劣等感も抱いていた。
「…………ねぇ、アタシに何か言いたいことあんのかって、聞いてるんですけどぉ」
 イライラした様子の妹。
「……別に。もういいよ、お前と話しても無駄だし」
 僕は、妹の碧い眼から目を逸らして、言った。
「……チッ」
 妹は、本当にイラついているように舌打ちをした。
 ムカつくなぁ。
 久しぶりの妹との会話だけど、ただムカついただけだった。やっぱりこの妹とは、話をすべきではない。
「じゃあな……………痛!」
 リビングを出るべく背を向けた僕の後頭部に、また衝撃が走った。
 さっきよりも大きな衝撃と痛みだった。
「お前……そんなポンポン兄の頭を殴るなよな。馬鹿になったらどうしてくれる」
「どうせ、もうアンタ馬鹿じゃん。学校の成績も下がっているらしいし」
「…………」
 そろそろ本気で怒ってもいいよね。
「…………ア、アンタが悪いんだからね。最初にアタシの事を無視したし。今も会話の途中に勝手に出て行こうとしたし」
 自分は僕の事を平気で無視することもあるくせに、本当に勝手な妹だ。
「……で、何?」
 そろそろルナと約束した時間になるので、兄を兄とも思っていない妹と話なんかしたくなかったけど、また殴られたくもなかったので、一応会話を続けることにした。
「アンタさ、まだソウルなんとかってネトゲ、毎日やってんでしょ」
「ソウル・リング・オンラインな。ああ、やってるよ」
 僕にもゲームにも興味なさそうなコイツが、ソウル・リング・オンラインの事を聞いてくるとは意外だった。
「それ、いい加減、卒業してくんない?」
「な、なんだよ。お前には関係ないだろ」
「関係あるつーの。実の兄がネトゲ廃人とか、恥ずかしすぎるし」
「は、廃人レベルじゃないよ、僕はまだ」
「毎日三・四時間、しかも日曜や祝日は家に籠って、ほとんど一日中やってるじゃん。廃人じゃないにしても、正直キモい」
「……キモいって、あのなぁ」
 虫だの、キモイだのって、僕、実の妹以外には言われたことないよ。
「先週の日曜なんか起きてから、ご飯とお風呂とおトイレ以外、ずっとそのゲームしてたじゃん……キモッ」
「その日はたまたま…………うん? 何でお前そんなに僕の行動に詳しいんだよ?」
 僕のことなんて、興味ないだろうに。
「あ、アンタの行動なんか簡単に予想できるの!」
「あ~、そうですか」
「とにかくっ! 家に籠って、くっだらないゲームばっかりしてないで、外で友達と一緒に遊びにいきなさいよ。服とか買いにいったりして、もっと格好良くなって欲し……」
「……アスカ」
 僕は凄くハマっているSROを『くっだらない』と言われて、ここ最近で一番腹が立った。
 そりゃ、SROがゲームであることは理解しているけどさ。
 でも、SROをプレイしたこともない人間に、くだらないと決めつけられるのは腹が立つ。
「え……あ、ゴ、ゴメン」
 !?
 い、妹が気まずそうに謝ってきた。め、珍しいな……この妹がこんなに素直に謝ってくるなんて。
 妹は、伏し目がちになりながら、僕を気遣うように謝った。
「……謝るから、そんなマジで怒んないでよ……やっぱりアンタ……友達いなかったんだ…………それなのに友達と一緒に遊びに行け、とかさ、無神経すぎた…………本当、ゴメン」
 謝ったのはそっちかよ!?
「いるから! 友達ぐらい!」
「あ、そうなの」
 妹は、さっきの神妙な態度をやめて、言葉を続けた。
「そりゃそうよね。友達のいない人間なんか都市伝説だよね…………で、何人ぐらいいんの? アンタ、高校生になってから一回も友達を家に呼んだことないけどさ」
 僕は妹に指を三本立てた手を見せた。
「三十人……へぇ~。アンタにしては結構――」
「……三人……」
 僕は妹から目を逸らして、ポツリと呟いた
 目を見開き、口に手をあてて驚くマイシスター。
 まるで「うわっ……私の年収、低すぎ……?」と驚く女性のようだった。
 多分、何百人もの友達がいる、この妹様は「うわっ……コイツの友達、少なすぎ……?」と、でも心で驚いているのだろう。
 そんな風に驚かないで欲しい。傷つくから。
 僕は、お前みたいに、向こうから友達になりたがって、人がドンドン寄ってくる人種じゃないんだ。
 中学に入学して、すぐに新規の友達百人出来ちゃうお前とは、僕は違うんだ。
「い、言っておくけど、三人ってのは、あくまで高校の友達に限った場合だからな」
「それでも信じられなほど少なすぎ…………あ、なんでもない」
「(クッ)…………じ、実は僕、構成メンバー千人を超す『ある団体』のメンバーなんだ。そこじゃあ一目置かれてるし、百人近くとの人と友達関係にもなっているんだ」
 嘘ではない。
 オンラインゲームであるSROで多くのプレイヤーとフレンド登録はしている。
 「へ~、そうだったんだ」
 僕を見る妹の目が輝いた。
 僕はその眼を見て、年齢的にも身長的にも小さかった時の妹――僕を尊敬して凄くなついていた時の妹、とても可愛かった時の妹――を一瞬思い出した。
「ねぇ、それ大学生主催のサークルとか? アンタ、そこでどんなことやってんの?」
「いや……ニート主催のギルドだけど。後、僕の職業は竜騎士(ドラグーン)……」
 僕は、自分がSROの世界で所属するギルドマスターで、一年間のゲームプレイ時間が(現実世界の時間で)五千時間を超すと豪語する男のゲームキャラクターの顔を思い浮かべつつ、妹の輝く瞳から、目を逸らした。
「それ…………ゲームの世界の話?」
 妹が、醒めきった冷たい目で僕を見てきた。
「べ、別に構わないだろ。ゲームの世界で友達になって、何が悪い」
「…………」
「言っておくけど、ゲームのキャラクターを操作する人間は、現実にちゃんと存在しているからな。つまり、その人達と僕とはゲームの世界では友達なんだ」
「……ハァ……」
 妹は溜息をついた後、頭が痛いという感じで、彼女の小さな顔を振っていた。
 クゥ、ムカツクゥ!
「あんた、そのうちネトゲの世界で恋人も探しそうでマジ怖いわ。勘弁してよ」
「あ、恋人はもういるよ」
「ハァッ!!!!!!!!???????」
「ちょ……母さんが起きるから大きな声だすなよ」
 僕は、いきなり大声を出した妹を注意した。
「こ、ここ恋人っ!? あ、ああああアンタに? え、えと、え~と…………あ、妄想か」
「妄想ちゃうわっ」
 挙動不審なぐらいに動揺した後、納得したようにポンっと手を叩いた妹を、僕はジト眼で軽く睨んだ。
「だ、だってだって、アンタに恋人ができるなんて……そんな……そんなの……信じられない……ううん、信じない……」
 おい、兄に恋人が出来るのがそんなに信じられないことなのか…………
「僕にだって恋人ぐらいできるっての。まぁ、ゲーム、つまり仮想現実の世界限定での恋人だけどさ」
「わ、わかった。非実在青少年ってやつでしょ。アンタ、とうとう二次コンをこじらせて…………たくっ、本当にアンタってキモイんだから、ハァ、やれやれ」
「いるからっ! キャラクターを操作している人間(プレイヤー)がちゃんと現実に! 僕はNPCを恋人にするほど超越していない!」
 確かに、SROも含めて最近の限りなくリアルに近づいているVRゲームに登場する、プログラムで操作されたNPCを、恋人だの嫁だの本気で言っている人もいるけどさ。
「ま、マジなの……アンタとネトゲの世界で恋人になっている人間が、マジで存在するの」
「ああ、ちゃんと存在するよ。ちなみにその女性とは将来結婚する予定だよ……仮想現実(ゲーム)の世界での結婚だけど」
「け!? けけけけえけけけけけけこけこここけここ!?」
 うわっ、妹が鶏化した。
「……ア、アスカ? 大丈夫?」
 僕は壊れ気味の妹を心配して声をかけたが、彼女の耳には届いてなさそうだった。
 そして異常なほど動揺したままの妹が、聞き取れないほど小さな声で何か呟いた。
「………………のに……ずっと前からお兄ちゃんとアスカは婚約しているのに…………(ボソっ)」
「え、今、なんて言った?」
「な、なにも言ってない!」
 顔を真っ赤にさせて、否定された。
「そうよゲームの世界のことじゃない……しょせんゲーム……たかがゲーム……現実じゃないし、仮想現実だし、ニセモノだし」
 ブツブツ呟く妹。
「確かにソウル・リング・オンラインはゲームには違いないけどさ。しょせん、とか、たかが、とか言うなよな。それに……」
「な、何よ」
「ルナに……あの世界の恋人であるルナに対する僕の気持は、ニ、ニセモノじゃない」
 我ながら、ちょっとアレなセリフを言った気はする。
 でも、ルナの事が好きだという気持ちは否定したくない。
「……………………」
 妹は口をパクパクさせて肩を震わせた後、僕を罵倒した。
「キモ……」
「……悪かったな」
「キモ、キモ、キモ、キモ、キモ、キモ、キモ! マジキモいんですけど!」
 半泣き状態になって連呼するアスカ。
 妹から泣くほど気持ち悪がられるなんて、僕の方こそ泣きたい気分だ。
「はいはい、どうせ僕は、お前から見ればキモイ兄貴ですよ」
 僕は、投げやりに答えた。
 まぁ、普段は口もきかない妹に、いまさらどう思われようと一向に構わないや。
「アンタさぁ、そのルナってキャラクターを操作しているのが、キャラクターに負けないぐらいの美少女とか、どうせ、そんな都合のよい妄想してるんでしょっ!」
 妹が、僕を指さして決めつけてきた。
「そ、そんなこと……ないよ」
 僕はあさっての方向を見ながら否定した。
 ルナのプレイヤーもルナのような美少女だったらいいなぁ、とは実は内心では思っているけど。
「残念でしたぁ。現実はそんなに甘くありません~」
「いや、だからプレイヤーも美少女だとか、思ってはないって。普通の若い女性だよ、うん」
「きっとブッサイクなオバサンが操作してますぅ~」
「…………そうとは限らないだろ。おい、止めろよ」
「むしろ、男が操作してますぅ、ネカマってやつね」
「……や、止めろ、止めて、マジで」
「それも、脂ぎったキモイおっさんが操作してますぅ」
「止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!」
 僕は耳を塞いでその場でしゃがみ込んだ。
 考えまいとしていた事を、妹にズバズバ指摘されて、僕の心が折れかけた。
「ゲームの世界で~、男子高校生とぉ~、ネカマのキモイおっさんがぁ~、イチャイチャしてるぅ~」
 妹が、恐ろしい歌を歌いだした。
「仮想現実の世界で~、ルナという名の美少女と結婚したらぁ~、中の人は田中 三郎 という名の四十代のオッサン~」
「黙れぇっぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 気がついたら僕は、妹が着ているパジャマの襟首を掴んでいた。
「ハッ!」
「グエッ!」
 柔道の有段者である妹に、背負い投げであっさり投げ飛ばされる僕。
「ば~か! 素人のアンタがあたしに勝てるわけないでしょ」
 妹は僕を馬鹿にしつつ、馬乗りになってきた。
「……イテテテ。何すんだよ」
 僕は腰の痛みに顔をしかめつつ、妹に文句を言う。
「………………………………」
 馬乗りになったままの妹は、無言で僕の顔を見降ろしている。
 ムカつくなぁ。
 というか、早くどいてくれ。
 金髪碧眼ハーフ美少女に馬乗りにされるという、ある意味で胸がドキドキするシチュエーションも、相手が実の妹だと嬉しくもなんともない。
 たとえ、僕にまたがっている妹の身体がとても柔らかく、石鹸と甘いミルクのような良い匂いがしてこようが、何も感じない。
「…………士朗、アスカ、貴方達、夜中に何を騒いで――」
 僕たちの母親がとうとう目を覚ましてしまった。
 そして、パタパタとスリッパの音を立てながら、リビングに入ってきて――
「な、ナニしているの兄妹で!?」
 愕然としながら驚きの声をあげた。
 息子に馬乗りになっている妙に赤い顔の娘を見ながら。
 妙に荒い息を吐いている娘と、馬乗りされている息子を見ながら。
「ちょっ……それ、まさか、は、入っているの!? きょ、兄妹で挿入しているのっ!?」
「イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ」
 何かとんでもない誤解をしていそうなマイマザーに、僕は慌てて手を横に振った。
「お母さん、変な誤解しないで」
 顔を赤らめがら、妹が僕の身体から離れて立ちあがった。
「コイツ……兄貴がいきなりアタシに襲いかかってきたから、投げ飛ばしてマウンドポジションとっていただけよ」
「そうそう、その通り。僕たちは何もやましい事はしてな……っておぉい、アスカァっ!」
 お前のその言い方だと、僕が実の妹をレイプしようとした鬼畜兄貴みたいに聞こえるだろっ!
「ああ、ただの兄妹ゲンカか。もうびっくりさせないで」
 ほっと、胸をなでおろす母さん。
 以前から母さんは、兄妹喧嘩で妹に僕が投げ飛ばされ、馬乗りよりも、もっと身体を密着させた寝技をかけられているところを何度も目撃している。
 だから今度も、大体の真相を理解してくれたようだ。
「ここ二、三年あんた達がお互いに避け合っていたのは、実は両親の眼を誤魔化すためのフェイクで、毎晩、親の目を盗んでは禁断の愛と肉欲に溺れていたのかと、つい、疑ってしまったわ」
 母さん、僕はあなたの女性向け大衆恋愛小説(ハーレクイン)的な想像力にびっくりです。
 流石は、仕事のためイギリスにいる夫と離れ離れで暮らしている寂しさを、毎夜ハーレクイン小説を読んで慰めているだけはある。
「とにかく、もう寝なさい。今何時だとおもっているの、まったく……」
 母さんに叱られてしまった僕達は、それぞれの部屋に戻ることにした。
 ベー、と僕に舌を出した妹には、本当にムカついたけどね。
 僕達は、お互いに無言で二階への階段を上る。
 目線を上げたら、先に階段を上っている妹の形のいいお尻が見えはした。
 が、特に胸が高まることなどまったくなかった。当たり前だが。
 妹のお尻などは、兄にとっては何の価値もないのだ。
 ……揺れる妹のお尻を見ていて、ふと、もう何年も前の話――お互いに小学生のころの話だけど、階段を上っている妹のお尻に、いたずらでカンチョウをして、泣かしてしまったことを思い出した。
 「もうお嫁にいけない、お兄ちゃん責任とって」
 と泣きじゃくる妹をあやすため、将来結婚する約束をしたことも思い出した。
 あの時署名した(署名させられた)妹手書きの婚約証明書は、いま、どうなっているのだろう? 
 当時の妹は宝物として大事に保管しておく、とか言っていた気がするけど。
 まぁ、そんな約束、当然無効だし、そもそも妹も覚えていないだろうけど。
 婚約証明書なんか、とっくの昔に妹の手により、ゴミ箱に捨てられている可能性が高いけど。
 ……フム。
 手を伸ばせば届く位置に妹のお尻……か。
 今、目の前の尻にカンチョウをしたら…………殺されるだろうな、確実に。
 対戦格闘ゲーム・ストリートファイターに出てくるケンの投げ技であり、妹の得意技でもある地獄車の技で階段をゴロゴロ転がった後、本当に地獄に投げ落とされるだろう。
 …………………………。

『ブスリっ!!!!
 やってはいけないことほど、やってしまいたくなるものだ。
 気付けば僕は妹にカンチョーをしていた。
 それも、指の根本まで埋まる強烈なカンチョーを。
「ヒギィっ!!!???」
 妹は、こっちが驚くような悲鳴を上げ、そしてバッタリと倒れた。
 ビクンビクンと身体を震わせながら泡をブクブク吹き、気絶する妹。
「どうだ、兄を馬鹿にするから、そんな目にあうんだ。これからは、心を入れ替えるんだな…………うん? アスカ」
 僕は、白目を剥いている妹に近づき、そして驚愕した。
「し、死んでるっ!?」
 妹(アスカ)の菊座(アナル)からは、大量の血が流れていた――』

 ――などと、妹のお尻を見ながら、くっだらない妄想を頭に浮かべつつ、僕は階段を上りきった。
 そして、自分の部屋まで歩いていく妹に僕は声をかけた。
 アスカは立ち止まりこそしたけど「……なに?」と、僕に背を向けたまま、顔を見ようともしないで返事しやがった。
 やれやれ。
 今日、数週間ぶりでそれなりに長い会話をし、数か月ぶりに身体の接触があったけど、特に妹と仲良くなれた気はしない。
 むしろ、より仲が悪くなった気はする。
 好感度でいえば、数ポイントは下がった気がする。
 まぁ、そもそも、『お兄ちゃん大好き』の口癖が『アンタ、うざい』に変わってしまった妹相手では、好感度が下がる選択肢しか存在しない。
 ベストの選択肢を選んでも、他と比べたら下がる好感度が少ないだけなのだ。
 なるべく会話もせず、なるべく近づかない。
 これが、この妹への正しい接し方なのである。
 が、
 これだけは言っておきたかった。
「SRO(ソウルリングオンライン)、僕のハマっているゲームだけど」
「アンタがネカマのオッサンと恋人になっているネトゲね」
「ち、違うよっ!」
 僕の方を振り返りながら、妹が
「ルナという名の恋人の中身は~、田中 三郎 という名の四十代のオッサン~」
 アスカ、その歌は止めろっ!
 聞いているだけで僕の心が不安定になってきて、得体のしれない不安感がこみあげてくるからっ!
「だから、何なんだよその歌! それに誰だよ田中 三郎って!」
「あたしの学校の体育教師。女装好き&ホモで有名の中年男性。アゴヒゲが青々としている筋肉ムキムキの四十代のオッサンであだ名はサブちゃん。そういえば、サブちゃんがそのネトゲをしているって噂もあったなぁ。もちろん女キャラクターで!」
「止めろ! 田中 三郎先生の詳しいプロフィールを僕に聞かせるな! ゲームの世界でルナと会っている時に、サブちゃんの影がチラついちゃうだろ!」
 妹は、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
 まるで、『計画通り』と笑う新世界の神のような笑みだった。
 デスノートがあったら、思わず妹の名前を書いてしまいそうになるぐらい、ムカつく笑い方だった。
「ゴホン。と、とにかく」
 僕は、一度軽く咳ばらいをした。
「お前、SROを『くっだらない』ゲームって言ってくれたけどさ、やったこともない癖に、くだらないって決めつけんなよ」
「…………」
「いや、SROだけじゃない。他の事でもそうだ。ゲームだから、とか漫画だから、とか、小説――ライトノベルだから、とか、やったことも、読んだこともないのに、くだらないって決めつけるのはよくない。批判するのは、実際にやってから……あ、オイ」
「説教、ウザ!」
 僕の話を最後まで聞かずに、妹は自分の部屋に入って行った。
「…………フゥ」
 溜息をつきながら、僕は、自分の部屋に入った。
 あ、ヤバい、もうルナと約束した時間を五分程、過ぎている。
 僕は慌てて、VRMMO専用ゲーム機を起動して、SROの世界にログインした。

   ☆☆☆

 …………僕が、多少遅れつつも約束通りこの世界に再びログインして、自分の眼を開けた時、とても不安そうな表情をして、僕の顔をじっと見つめていたルナの姿が見えた。
 僕が本当に、またログインしてくるのか不安だったのだろう。
 ひょっとしたら、約束を忘れられたのかもと、心配していたのだろう。
 眼を開けた僕と彼女の眼が合った時、ルナの表情は一度喜びの表情に変わったが、すぐに澄まし顔で、謝罪を要求してきた。
 当然、僕は遅れたことを謝ったのだが、謝罪の言葉だけでなく行動も要求された。
 お詫びのキスをせがんできたのだ。
「……遅れてしまった事を許して欲しければ…………私が満足できるような甘いキスをして頂戴」
 ルナは目を瞑りながらその桜色の薄い唇を差し出してきたのだ。

 当然、いつものように、僕は喜んでルナに気持ちを込めたキスをしようとしたのだが――『ルナという名の恋人の中身は~、田中 三郎 という名の四十代のオッサン~、オッサン~、オッサン~』
 妹の声による呪いのような歌、まさに呪歌が僕の頭に聞こえてきた。
 それもエコー付きで。
「…………シロウ?」
 ルナが、なかなか唇をあわせようとしない僕に対して、じれったそうに名前を呼んだ。
「ル、ルナ。ちょっと確認しておきたいことがあるんだけどさ」
「……何かしら」
 目と瞑ったままのルナに、僕は意を決して聞いてみた。
「ルナ……現実世界の君って、女子高校生なんだよね」
「……………………ええ、そうよ」
 現実世界の話をされるのが嫌いなルナ――ルナを操作しているプレイヤーは、不機嫌な声ながらも自分が女子高生であることを肯定してくれた。
「…………女子高校生の振りしたネ、ネカマじゃないよね」
「…………ハイ? よく聞こえなかったのだけど」
 眼を瞑ったままのルナの白い額に太い血管が浮いた。
 うう……失礼な質問にかなり怒っていらっしゃる。
 だけど、この件に関しては僕もハッキリさせたいのだ。
「現実のルナは――ルナのプレイヤーである君は、本名が田中 三郎、学校の体育教師で女装好き&ホモであり、アゴヒゲが青々としている筋肉ムキムキの四十代のオッサンで、あだ名はサブちゃん…………じゃないよね」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………あの、ルナ?」
「…………………………」
「ル、ルナさん? 沈黙が続くと色んな意味でメッチャ怖いんですけど」
「……………………フゥ」
 ルナは一度溜息をついた後、ゆっくり眼を開けた。
 そして、残酷な真実を告げたのだった。
「どうやら、バレてしまったようね。私が……サブちゃんであることが――」「イヤァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっっ!!!!!!!!!!!」
 僕は宿屋、いや、町全体に響きわたるのではないかという程の大声で絶叫を上げていた!
 そして、音速の速さで虚空を叩き、光の速さでメニューウィンドウを開いた!
「ロォグゥアウトォォォォォォゥウ!!!」
 叫びと同時にメニューウィンドウの一番下にあるログアウトボタンを押した!
「ま、待ちなさいシロウ! 今のは冗談……」
 僕がログアウトしてこの世界から落ちる瞬間、ルナ、いや田中 三郎さんが何かを慌てて叫んだが、半狂乱状態の僕には聞こえなかった。

 その日から一週間、僕は学校を休んで自分の部屋に引きこもった。
 もちろん、SROの世界にログインすることもなかった。
 もう………………何も信じない………………信じられない。


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3年近く前の作品ですが、思い入れがあり、公開してみました。
改定・修正しつつ、FCブログならではの編集もしていきたいと思います。

☆ 第一部・中編は今月中に公開予定です ☆


アルファポリス様でも公開中!
VRMMOで僕の妹と彼女が修羅場です(アルファポリス掲載版)
http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/350033317/
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~ Comment ~

地味に続きが気になります できれば更新してください

NoTitle

続きが気になります!出来れば更新よろしくお願いします!

NoTitle

面白かったです更新待ってます

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